いい出会いがあったので報告しておこう。
まずはスズキ(仮名)だ。
最近、雨が多いのと、自転車の鍵を3つとも全部紛失してしまったので、頻繁にバスを利用している。
はじめての出会いは雨の夜だった。
僕が乗った1停先、前の座席に腰掛けたパンツスーツの女性。スッと伸びた背筋に目が奪われた。急に降ってきた雨に濡れたのだろう、おもむろに髪を束ねようとする細く、長い指。ひとつにまとめた髪の下からは彼女の白い肌ときれいなうなじが露になっている。
「雨の中、大変お待たせしました。このバスは天神経由、福浜行きでございます。」
ふとバスのアナウンスに気を取られたのは、冒頭に「雨の中」と付け加えた運転手の小粋さである。道路交通事情に左右されるバスでは、2、3分の遅延は当たり前だが、このタイミングでは定刻から1分も満たない遅延で「大変お待たせしました。」と言う謙虚さにもだ。
ただ、それは、ふと夕日を見てきれいだ、とか、休日にお気に入りのソファに身体を預けて心地良いと感じる程度に過ぎなかった。アナウンスに耳を傾けた僕だが、次の瞬間は相変わらず移り行く街の景色を無視してうなじを見つめていた。
そして、次の停留所。
「西鉄バスセンター前です。お降りの方はお忘れ物などないようにお願い致します。」
「学生のみなさん。楽しい夏休みもあと僅かです。思い残しのないよう遊べるよう、学べるように体調管理には十分お気をつけくださいっ。」
ハッと車内の空気が変わった瞬間だった。
降車口を見れば、学生の集団が正に今バスを降りようとしている。彼女らは年頃ということもあってか、そのアナウンスに気付いたとも気付かないとも言えない雰囲気でICカードをピッとやっているが、車内の大人達の反応は「こいつ!スゲえ。」である。
よくよく見れば、マイクを外し、
「気をつけておかえりください。」
「気をつけておかえりください。」
「気をつけておかえりください。」
と、ひとりひとりに声を掛けているのだ。
僕は、前回このブログで書いたオカモト以来のホスピタリティの可能性を感じずにはいられなかった。ただひとつ「こいつ、ロリコンじゃないのか」という疑問を除いては。
しかし、そんな懐疑的な思いは次の停留所で一掃される。
「雨脚が強くなってきました。お足下が非常に悪くなっておりますので、気をつけてお帰りください。」
ちょうど、雨が強くなってきたことを察知しての一言。
ロリコンなどではなく、完全にシチュエーションによって、最適なお見送りのアナウンスをチェケナする西鉄マイクロフォンアンダーグラウンドだったのだ。
瞬間、僕は運転手の名前が記載されたプラカードをCheck it out!この時点で、前席の香水くさいうなじは足の裏よりもどーでもいい存在になっていた。
この運転手の名はスズキ。
僕の降りる停留所に着く頃、離れることに寂しさも感じていたほど心洗われるスズキのマイク。最高の料理を作ってくれたシェフに腕時計を外して渡すように、ICカードをピッとやったことにスズキは気付いてくれただろうか。いや、きっと気付いたはずだろう。
ちょっとした喪失感を覚えつつ、数日が経ったある日。
思いがけない再会が待っていた。
それは猛暑日の午後だった。
いつもだが、今日は土曜日ということもあって更に遅い出社だ。自宅のマンションを出て、ギンギン過ぎる太陽に照らされる僕は、その忍耐力のなさから、いつ自宅へ引き返してもおかしくない状態だったが、その日は1,000億円のディールがあったので、そのままバス停へ。
「お暑い中、大変お待たせしました!」
迎えてくれたのは、まさかのスズキだった。
「素敵な週末をお過ごしください!」
「暑さに負けず、今日も笑顔で!行ってらっしゃいませ!」
降車する停留所がビジネス街か否か、また降車する人数によっても使い分けるフリースタイルなMICは今日も健在。きっと、スズキはバスの運転手として、青春を生きているのだろう。何とも清々しい、そして、素晴らしいお仕事だろう。
また、そんなスズキ同様。
僕もいよいよ青春の全てを捧げる時がきた。
こちらの築47年のマンションを丸ごとリノベするプロジェクト。
現状、お世辞にもきれいとはいいがたく、
良い方は悪いがお化け屋敷のような状態の部屋もあったり。
しかし、心配無用。
これが大化けするポテンシャルは十分である。
ここから如何に生まれ変わるか、是非楽しみにしていてもらいたい。
ロマンチックは連鎖するって話です。
情報は改めて公開しまーす!