男同士の夜はいつだってロマンチックだ。


今のマンションに越してきて10ヶ月。

 

大体の要注意人物(住人)は把握できたつもりだ。

 

両手に杖を持つ7階のじいさんは、もう何度も顔を合わせているのに、毎回、何号室に住んでいるのかと執拗に聞いてくる。捕まると長いので、急いでいる時に出会ってしまうと最後だ。

 

少し頭を薄くした和製アントニオ・バンデラスは歳の割に長髪で革パンとか履いていてかっこいい。夜は時々ギターケースを持って出掛けてるので多分、殺し屋だろう。

 

上階のマダムは挨拶を一切返さないので好きくない。こないだエレベーターで一緒になった際、屁が漏れて咳払いで誤摩化していたが、僕が気付いてないとでも思ったか。

 

あと、同じフロアには以前このブログでも紹介した酒豪の國村準がいるが、着信がないので、まだバレてはいないはずだ。

 

と、まあそれなりに個性豊かな面子で構成された住まいではあるが、特にトラブルもなく、むしろ快適な暮らしを享受できるのはある男のおかげである。

 

その名は、オカモトさん(仮名)。

うちのマンションの管理人である。

 

職業柄、マンションの管理人という職種に接する機会も多く、売買となれば結構密なやりとりをするケースもあるため、たくさんの管理人さんと接してきたが、うちのオカモトさんはその究極形だろう。

 

「いってらっしゃいませ~」

僕の朝はオカモトさんの挨拶から始まる。

始業時間が決まっていないこともあって、昼前とかに出ると「いいですね~。重役出勤ですね。」と、ユニークなかけ声から軽快なトークへ。「よ!社長!」とか、「今日は早いんですね。(夏なのに)雪が振るかもですね。」などなど、状況に応じて巧みにひと声かけてくるのがオカモト流である。そして、管理人室から席を立ち、エントランスまで見送るのだ。

 

共用部にゴミが落ちてるのを未だ見た事がない。

清掃も管理人の主要業務なのだが、とにかく一生懸命。1Fにはテナントが入っているが、テナントの授業員よりも店のまわりを掃除しているし、駐輪場の整理整頓にも余念がなく、一糸乱れぬ配列は既にアートである。そんな姿を見てるからだろうが、住人のゴミに対するマナーは一様に高い。当たり前のことを当たり前以上することでコミュニティの意識改革までやってのける、それもオカモト流だ。

 

そして、旺盛なサービス精神こそ彼の真骨頂。

集合ポストの僕の鍵が壊れてしまってしばらく。修理依頼をサボっている旨を伝えたところ、郵便物を配達口からピックアップ、デリバリーしてくれるようになった。もちろん、頼んだわけでもなく、自主的にだ。ヤバい匂いを感じた郵便物には厚めに梱包をアレンジしてくれるというホスピタリティと、「郵便でーす!」と、常に直筆一筆したためる、粋な計らいは感動ものである(なので、修理する予定はない)。

 

 

 

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こんな感じでドアノブに挟んでくれる。

 

 

 

まだある。

荷物を運ぶため、車をマンションの前に一時停車させ、部屋に戻った時のこと。チャイムが鳴るのでオートロックのモニターを確認すると、「警察が来てます、早く降りてきてください。」と、オカモトさん。そう、駐禁まで回避してくれたのだった。

 

そのエピソードの気づきでもあるが、何より素晴らしいのは、ここの住民を守るという心意気だ。近隣マンションの住民がうちのマンションのゴミ捨て場にゴミを捨てているとの噂、リスニング&ゴーでゴミ捨て場を施錠、収集日の前日に解除するシステムに変更。また、隣の敷地で建設中のマンションの騒音に苦情が入れば、即先頭に立って抗議を行うのだ。

 

先日の深夜、エントランスの明かりを頼って自転車のメンテナンスをしていた僕だが、突如闇から現れたオカモトさん。どうしたのかと聞くと、夜間うるさい住人がいるということで、調査に来たという。完全に時間外の労働であるが、それを平然とやってのけるのがオカモト、その人である。

 

決して人気であったり、憧れのとは言い難いであろうこの管理人というお仕事。それも勝手な解釈ではあるが、どんな仕事ひとつとっても、確実に「人」次第でこうも心を動かす仕事になるのだと日々痛感させられる。

 

 

 

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管理人室。不在時は四季折々の風物詩を小窓に添えている。1月は餅とか、5月は鯉のぼりとか。今はかき氷屋さん。こんな心配りを誰が出来よう。オカモトだ。

 

 

その夜、いつもよりちょっと話し込んで、明らかになったのは管理人業としてのキャリアは3年程度で、その前は東京で省庁に勤務していたとういうエリートなバックボーン。福岡は縁もゆかりもないらしく、知人も少ないという。

 

夜だからか、ちょっぴりビターな表情も挟みつつ、去り際に鞄からすっと差し出してくれたカントリーマアムが甘かった。

 

こんど飲みいこーぜ、オカモト!!