こんにちは、と引き戸を開けて土間に入ると、ほのかなにおいが鼻腔をくすぐります。
「ああ、古民家のにおい」
初めて会う緊張がみるみる溶けていきます。こんな家に暮らす人はきっといい人に違いない。
このにおいに僕はちょっと弱いのです。
それをはっきり意識したのは30歳代半ば。
20代の終わりごろから九州各地の農家や商家を訪ねる機会が多く、各家に固有のにおいがあるのは知っていました。
糸島で最初に住んだのが築80年の農家で、そのときに田舎のじいちゃん家のにおいと同じであることに気づき、「これが古民家のにおいなんだ」と思い至ったわけです。
薪で火を焚いて調理していた時代の名残がいまも柱や梁、屋根裏に染み付いていて、何十年経っても消えることがない。
ペットや獣のにおいと同じで、家も生きて呼吸していると思うと、たまらなく愛しいのです。
さて、古民家どころかただの古家と化したわが家はどんなにおいがするのか。
娘が保育園に通っていたころ、「よっちゃんの頭、薪のにおいがする!」と叫んだ同い年の女の子がいました。
薪ストーブのにおいですね。
それが薪のにおいだとわかる子もなんだかすごいです。
糸島、おもしろい。