薄暮の街に夏が来る


 

福岡の夕暮れは長い。

 

今の時期だと、東京に比べてちょうど30分ほど、福岡の日の入りは遅くなります。
古い話ですが、夏休みに千葉の友達とチャットしていたとき「もう暗くなってきたね」と言われて、まだ窓の外はこんなに明るいのに?と驚いたことがあります。

 

そんな「時差」があることはもちろん知っていましたが、このわずかな差の重要さに気づいたのは、いちど就職で福岡を離れてから。
仕事を終えてオフィスを出る、まさにその瞬間の明るさがぜんぜん違うんですね。
19時を回ってもまだまだ明るい福岡では、ちょっと飲みに行こうよ!のハードルがとても低いんです。

 

土地の気候風土は、そこに住む人の気質を大きく左右します。
たとえば常夏の国の人がおおらかであるように、雪に閉ざされる国の人が寡黙であるように、福岡に住む人のオープンな人懐っこさ、その根っこにあるのは、きっとこの長い夏の夕暮れじゃないか、と勝手に思っています。

 

ゴールデンウィークが明けるころ、福岡の街は途端にざわつきはじめます。
学生のころは見過ごしていたのですが、日が長くなるのを待ってましたとばかりに、街のあちこちでワインバルや地酒イベントが開かれ、薄明るい街のそこかしこで乾杯の声が響きます。
もしかすると福岡の人のイベント好きも、昼と夜のはざまにあるこの時間のせいなのかもしれまえせん。

 

移住人気が高まって、福岡の人口はずいぶん増えました。今では天神や博多で出会う人のうち、かなりの割合が東京の出身だったりして驚くこともあります。おしゃれな店も増えて、私が青春をすごした10年前の福岡とはずいぶん変わったなと感じることも多くなりました。
それでもこの季節、薄明るい通りの陽気なざわめきは、やっぱりこの街の変わらない素顔だなという気がします。

 

長い夕暮れと、温水プールのような空気。
そこに飾り山がきらめき始めれば、ひときわ鮮やかな福岡の夏の幕開けです。
胸のあたりがこそばゆくざわついてしまうのは、やはり福岡育ちの性でしょうか。

 

 

ちなみに、福岡は冬のつらさにも定評があります。日の出が遅い上に、日本海側気候なのですっきりと晴れる日はほとんどありません。
就職活動で関西を訪れたとき、真冬なのにすこん、と抜けた青空が出迎えてくれて、心底びっくりしたことを今でも覚えています。
ああ、あの青空だけは福岡に持ってこられないかなあ。