仕事では、市内中心部を小刻みに移動することが多いので、
スタッフのほとんどが自転車を利用している。
大崎くんはかっこいいロードタイプ。
攻撃的な配色が行動力のある大崎くんにピッタリだ。
白石さんはシンプルで実用性の高いMUJIチャリをセレクト。
MUJIブランドとのマッチングが完璧。自分に似合うものを知っている女性は素敵だ。
僕のはノーブランドで多分量産型のやつだが、気に入っている。
長年愛用した自転車がパクられた直後、弱った俺の心にスッと入ってきた。
当然、モノなので好みも反映されるが、重要なのは機動性である。
その点でいくと、前出の3つはいずれもクリアしていると言っていいだろう。
で、問題はこいつである。
周辺にゴミが多い理由は後ほど。
画角を前の分と揃えてしまったので、サイズ感がイマイチ分かりにくいと思うが、このチャリはかなり小さい。ママチャリの半分みたいな。
疲れ果てたボディに刻まれた名前はPOTATO.
持ち主は、坂田くんだ。
絶頂期のパルコを彷彿させるフォント。
既に見慣れてしまった今では、ポテトに多少愛嬌を感じられるようになったものの、初見の印象は誰しもが「、、、ダセぇ。」である。
周囲は大人だからして、一様に「面白いのに乗っていますね!」とジャブるのだが、強烈に鈍い坂田くんの返答(定型文)はこうだ。
「今のトレンドから一周して、かっこいいでしょ?」
意味不明である。
僕が知る限り、同意を得たシーンは見たことがないし、今のトレンドから一周したらちょうど今のトレンドだ。
まあ、人の好みはそれぞれなので、それは置くとして。
問題は、重要であるはずの機動力が圧倒的に欠如していることである。
サイズ的に小回りは問題ないにしても、ギアも付いていないミニタイヤでは漕いでも漕いでも、進む距離は知れている。
一緒に移動しようものなら、その絶望的なスピード感に親指を噛み過ぎて爪が無くなる始末。とにかく、ペースにすごく気を使うのだ。
なんて、文句たれる僕ではあるが、実はそんなポテトを少し不憫に思っている節もある。
それは、持ち主である坂田くんについてなのだが、ポテトのかっこよさを自慢する割に愛車精神がびっくりするくらい足りないのだ。
メンテナンス、ゼロ。
寒い冬と暑い夏は極めて稼働日数が少ないので、1クール以上雨風に晒されている。カゴにゴミを捨てられるのは当たり前。飲食店が多いエリアだからして、カラスのフンが付いていることもしばしば。
で、坂田くんは、使いたい時だけ、使う。
まさに、都合のいいやつ。的な扱いなのだ。
なのにも関らず、文句のひとつも言わず、主人を待つこのポテトの健気さにいつも心がチリチリしていたのだが。季節は春。
全く気にかけてくれない主人に代わり、ようやくポテトが必要とされる時がきたのである。
事務所の隣にある、ふぐ料理屋の大将の長靴を干す。という天命を与えられたのである。
この日、坂田くんは上毛町に行っていたので、さぞ喪失感に苛まれるだろうと意気揚々に写真を送ってみたのだが、何故か喜んでいた。やや肩透かしを喰らいつつ、そんな異形な愛も成立してるのだろう。
季節柄、難しいことを考えるはやめにしとこう。
春です。