台風の影響でお天気は荒れ模様。梅雨明けが待ち遠しい。ざわざわとなる雑木林の中では無数の虫たちが息をひそめているのかもしれない。
糸島暮らし、今回は「虫」のお話。
寝入りばな、首筋に汗が流れるのを感じたと思ったら、次の瞬間、チクッと鋭い痛み。飛び起きると、布団の上をムカデが這い回っている。
「また出た。みんな起きろ」
すぐさま火ばさみで捕らえ、外で「おしおき」。やれやれ。
あいさつがわりに軽く刺したとみえて、救急用のスポイドで吸い出すと首筋の痛みはほどなく消えた。
ムカデの出現はわが家では珍しくないが、今年はどういうわけか数が多い。昼間ならまだしも、寝込みを襲われることが3日も続くと、何か対策を講じなければならない。
雨水をたっぷり含んで生い茂る草。この中を無数の生き物が這い回っている。
殺虫剤を買ってきて家の回りにまいた。効果はてきめんで、翌日からぱったり出なくなった。
本当は、こんな劇薬は使いたくない。自衛策ということで必要最小限の使用にとどめたのだが、小さなクモやダンゴムシまで白い粉にまみれて死んでいるのを見ると、自分が恐ろしいことをやっているような気持ちになる。
実は、幼い頃から虫は大の苦手だった。一人暮らしを始めてからも、アパートの天井や壁にクモがいたりすると、腰が抜けるほど怖かった。それが、糸島で暮らすうちに、それほど気にならなくなった。
苦手なのは変わらないが、あわてなくなった、というのが正確だろう。
なにしろ家の中も外も虫だらけである。
薪の中にはガやカブトムシの幼虫がひそんでいるし、庭から戻ると髪の毛や肩に小さなクモの1匹や2匹、ぶらさがってついてくるのがフツーだ。
「お願いだから僕のことは放っといてね」と、そんな気分で外に放つ。
クヌギ林はクワガタやカブトムシの宝庫だが、伸び過ぎて海の眺望が遮られてしまった。
先日、福岡市内に住む友人夫婦が遊びにやってきた。かねてからシティ派を自認する彼らも人生の折り返しに立ち、田舎志向が芽生えているようだ。
「でも、虫が心配で踏み切れないんですよねぇ」
こう言う主人は僕と同じくらい虫が苦手ときている。
「松尾さんもこっちに移るときはかなり勇気がいったでしょう?」
尋ねられて気づいたのだが、僕が糸島に引っ越すとき、虫のことはすっかり忘れていた。ただただ地べたに暮らしたい一心だった。住んでみて、虫に遭遇する「危機」に直面する中で、いつの間にか対処法を身につけていたように思う。
お客様を糸島の物件に案内するとき、虫のことが話題に上ることは少なくないが、そこであまりにリアルな話をすると逆効果になりかねないので、できるだけ軽く流すようにしている。
今回は、友人を励ますつもりがかえって萎えさせてしまったようだ。
ムカデの話はやっぱり、ちょっと強烈すぎたかな。
こんな虫なら大歓迎。夏の蝉しぐれももうまもなく。